近江俊彦さんからのメール


    感想を書く前に、いくつか前提を示しておきます。それだけどくんごさんの表現は独特ですし、またその前提もある意味では感想の大きな要素でもありうると考えるからです。

1.芝居を観ている時の態度

    (1) 台詞は無理に聞き取りにいかない。また、耳に入ってきた台詞も意味を追わないし、意味を考えない。
     ここに気を取られていると、どくんごさんの表現の本質を全面的に味わえない気がするので、このようにして観ていました。

    (2) ストーリーを追わないし、ストーリーがあるものだとは考えない。
     これもある意味では(1)と同じです。とにかく感じること意外に余計なことを考えている余裕がないということです。もちろん考えようとすればいくらでも考えたくなるネタがぎっしり詰まっていると思うのですが、それは後日にとっておいて純粋に感じることだけに専念して観ていました。

    (3) イメージを膨らませない。見えている映像そのものを受け取る。

2.感想の表現について

    (1) 時間芸術(そもそもそんな単語があるのか分かりませんが、音楽・演劇・映画・パフォーマンス舞踏などの、鑑賞者に対し一定時間の拘束を強いる表現形式のことを指しています。)のうちで音楽用語で書く場合が多い。
     なんか、そのほうが私の感覚にぴったりするのでそのようにさせていただきます。

3.私が表現に対して重要だと考えていること

    全てにおいて客観的尺度で計っているわけではありません。あくまで私の主観です。
    (1)表現そのものの強さ
    (2)時間表現についていえば、推進力(ドライブ感)の強さ
    (3)鑑賞後に残った印象の強さ
    (4)表現の純粋性
    (5)オリジナルであること

「ベビーフードの日々」の感想

1.全体的な印象

    凱旋公演で感じたことをメインに書きます。

    全体的に暖色系の強い光と、大音量で強烈なグルーブを感じました。それらがもたらす至福感により、ほとんど恍惚感にも似た時間を過ごすことができました。
    暖色系のキャラクターはもちろん役者さんの個性なのだと思いますが、その色彩の統一感が他には見られない特徴だと思いました。

    グルーブを生み出しているのは、むしろ舞台に上がっていない時の役者、もしくはメインの役者の背景で群舞に加わっている、または舞台の背景を歩き回っている役者の体内にあるリズムや表現に対する統一された意思がもたらしているものだと思いました。
    とにかく、舞台上に居なくても舞台に注がれる役者の視線と意思を強く感じました。
    この点では特に時折さんと五月さんの演技が深く印象に残っています。こういう演技のことを「頭の先からつま先まで神経の行き届いた」といえるのだと思いました。

    また、もしもしガシャ~ンの役者のどくんごさんとは異なるリズム感をも取り込んだどくんごさんの重層なポリリズムによって新たなビートがこのグルーブを増幅し、かつ重厚にしているようにも思いました。

    そういうわけで、私が大事だと思っている表現の要素を非常に高い次元で実現しており、非常に堪能させていただいた公演でした。

2.それぞれの役者さんについて

    時折さんは、スターですね。なんかすごいです。芝居全体をドライブしていたと思います。ジョン・コルトレーンカルテットのエルビン・ジョーンズのような。
    あえて難を言うなら一人芝居のシーンが、時折さんにしては普通だったかなあと思いました。なんというか、すんなりと流れが良すぎたような感じです。ちょっと台本を削りすぎましたか?

    五月さん!も、すごかったです。
    ただ、表現に対する熱情が過多(決して悪いとは思いませんが)で、少年のせつなさみたいな表情が出し切れていないようにも感じました。でも、芝居全体として、そのメリハリがあったほうが良かったのかどうかはわかりません。

    健太さんは、相変わらず誰にも似ていない独自の表現で、しかも今回はあまりにも独特のキャラなのに芝居にピタリとはまるのは何なんでしょうか?わけが分かりません。わけは分かりませんが、んー、やっぱり分かりません。
    いいのか悪いのかも良く分かりません。健太さんの表現が好きですとしか言いようがありません。
    健太さんの芝居は、どくんごさんの公演の中でも成立していますが、それだけを切り出しても成立しているように思いました。
    機会があったら一人芝居も観てみたいと思いました。

    まほさん。一番どくんごさんらしいイメージで押していましたよね。色々なキャラが立ち代り登場する中で、どくんごさんの表現のイメージに観客の気持ちを繋ぎとめる重要な役割を演じきっていたと思います。
    あとは、五月さんのような凄みまで感じさせるともっといいかなあ。と思いました。

    奈尾くんと、たかはしくんは、批評が難しいです。どくんごさんの表現の大海をよくぞ泳ぎきりましたね。という感想です。でも、もしもしガシャ~ンの芝居を見慣れた目には、あらためて成長の跡がみられるといったような変化は良く分かりません。
    ただ、最終的には、芝居全体の流れを、そのグルーブ感を損ねることなく演技できるまでに精進したことは誉めてあげたいです。
    終わったばかりでなんですが、やはり、もしもしガシャ~ンの公演で、成長した姿を観せてほしいと思わずにはいられません。

3.その他雑感

    「少し早いがほぼよろしい」や「バラ色の日々」、それから公演日記などにより、今回の公演の作りこみを想像するにつけ、凱旋公演の完成度を想定した構成を考えるどいのさんの自信と力量に感動しています。特に自信のほうにです。
    やはり、作り上げる仕事には高い高い目標と、なんとしても達成してみせるという強靭な意志が何よりも大切であることを改めて教えてもらった気がします。

    屋内での公演では、表現がやや小ぶりになっている印象があったのと、合わせてもいない役者を招いてどうなることになるのか無用な心配をしていましたが、テント公演は感動の深さが屋内公演とはケタ違いでした。
    やはり、テント公演がどくんごさんのオリジンであることを強く印象付けられました。

    一人のシーンを抑え目にして全員の群舞でクライマックスへというピースと2~3人の中くらいの強さの表現というピースを組み合わせてメリハリをつけていくという構成なのかな~と考えていますが、シーンの表情は静かかもしれませんが、表現そのものは終始一貫強くてメリハリはあまりついていないように思いました。
    もっとも、こちらの容量不足でそのように感じたのかもしれません。でもそれが悪いというのではなく、演じることに対する、なにか祈りにも似た執念とか神々しさとかいった感じを受けました。
    これぞどくんご!という感じです。

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